たね


こんなにきれいな 空の下
見上げる
私は
何も持ってはいないけど

きれいのたねなら
たくさん
知っている

それは
見知らぬ誰かが撒いた
無数の
尊い祈りのたね

畑の
オミナエシの中に
紛れていやしないか

お母さんの作った料理の中に
隠れていやしないか

工場のなかで
眠っていやしないか

お父さんの足跡に
忘れられていやしないか

誰にも知られずに
そっと蒔かれて
黙っている
たね

中には
大事な人が
大事なものが
幸せであるように
祈る願いが
詰まっていて
時期が来ると
ちゃんと役目を
果たすだろう

私はそんなたねを見つけて
知らせよう

こんなにきれいな空の下
見上げる
私の手には何にもないけど

私も
たゆまず
たねを蒔こう
幸願う祷りのたねを
いつか役立つ
小さなたねを
たくさんたくさん
世界を美しくするために


たねは
そこら中に
広がって
誰かの心の隅に仕舞われて
じっと
役目を果たすだろう
ほら
風に乗って飛んでいけ
どこまでも
どこまでも
あなたの澄んだ瞳の中を
通り越し
空の青さを突き抜けて
暗い宇宙の彼方まで
これから生まれるすべての彼方まで
飛んでいけ
そして世界の欠片となって
新しい美しさの
たねとなれ