la-paume

音と詩によるLIVE LAB

形に残らない、見えないものに丁寧に向き合い内側から響きだす音と言葉の実験的アートラボラトリー

Tistou with a soft wind

ティトと風

繊細で純粋な響きと、時空間を越えて行く言葉の交差から、目に見えない世界が立ち上がる。消えて行く音の先にある無音界を訪れるとき、自分が溶けて行き、未知の何かに出会う束の間の旅を共有するユニット。

  • Tistou ティト
    ポエトリーリーディング  TOMOKO 東京都出身。13歳よりエミリ・ディキンスンの翻訳家中島完氏と今日まで詩文通を続ける。 テキスタイルデザイン、コンセプトデザイナーを経て2010年より、詩作を中心とした活動に入る。詩、声、身体、スピリット、音、空間、の多層的感覚を意識した表現活動を続ける。出雲大社、天河大弁財天社にて、詩とパフォーマンスを奉納する。 2015年「les poésies de menuメニューの詩」がbccksの電子書籍ランキング1位。「春spring poems」「神の足音」「ビッグフットの森」他出版。朗読動画(youtube)「Invisible Sea 見えない海」他
  • a soft wind 風
    山本コヲジ 響きもの  水晶楽器、音叉、コングの振動を通して、記憶の先を辿り、未来を開く。クリスタルボウルと言われる水晶楽器に魅せられ、奏で始める。主宰サロンや大学、幼稚園での体験型講義を通じて響きの可能性を探求。サントリーホール30周年記念事業フロンティア・プロジェクト選出作品|国内屈指のアンビエント音楽フェス Off-Tone等、イベントや舞台、瞑想会に多数出演。


掌に
握る私を          
波に放とう

何も持たずに         
生まれた日
波のような
喜びに
泣いた力  
思い出せるよう

掌に
握る私を
風に放とう

何も持たずに
生まれた日
風のような
喜びに
笑った訳を
思い出せるよう

掌に
吹く風を見るなら
涙も乾く

掌に
溢れる波を抱くなら
涙も笑う






小さいヨハンナ記憶がない
ヨハンナのリンゴ
いつでも最初のリンゴ

小さいヨハンナ芝生の上で
姉さん剥いたリンゴを食べた
あんまり美味しい味なので
ヨハンナ芝生を転がって
ぐるぐるぐるぐる
目が回り
姉さんいなくなっていた

大きいヨハンナ記憶がない
ヨハンナのリンゴ
いつでも最初のリンゴ

100歳のヨハンナ芝生の上で
小さな子どもにリンゴを剥いた
あんまり赤い皮なので
ヨハンナ芝生を転がって
ぐるぐるぐるぐる
皮を剥き
まちじゅうみんなに
りんごをあげた

ヨハンナのリンゴ
いつでも最初のリンゴ
赤くて甘い最初のリンゴ
赤くて甘い最初のリンゴ
ヨハンナのリンゴ
ヨハンナのリンゴ



Tistou

ティト


私は
一歩づつ
一歩づつ
生きているのか

一歩づつ
一歩づつ
死んでいるのか

私は
一歩づつ
一歩づつ
ざぶざぶと波を抱え
さらさらと流れを渡り
ざーざーと雨に濡れ
しんしんと雪をまとい
はらはらと散る花になり

一歩づつ
一歩づつ

大切なひとが死ぬ時を
恐れないために
全身の耳を澄まして
精霊の声を聞いている

一歩づつ
一歩づつ
精霊に混ざり合えるよう
祈り

一歩づつ
一歩づつ
新しいあなたに
会いに行くのだろう







目を開けると
いつも
世界が置いてある

鳩が運ぶ
小枝のように
世界が置いてある

しおれたヒナゲシ
戦争と
パン

私の中に
知らない世界が
置いてある

それは外の事なのか
内の事なのか

戦っているのは
世界なのか
私なのか

私の中に
風が吹き過ぎていく
兵士が書いた
砂の手紙を
最後に読んだ
風が

悲しんでいるのは
世界なのか
私なのか

起きていることは
世界なのか
私なのか

繰り返される出来事を
見ているのは
世界なのか
私なのか

人が去り
雨が泣く地面を踏み
実ったリンゴの木を
抱くために
私は
出かけよう


外の事だろうと
内の事だろうと

繰り返しの輪の外へ
世界を連れて
私は出かけよう

錆びた長い
フェンスのように
抵抗する自分の外へ
辿り着いたら

闇が光に溶ける空の中から
鳩を捕まえ
手紙を託そう

どんな時も
人の心から
愛が消えた事は
なかったと

記した手紙を
結わえて
鳩を飛ばそう



Tistou

ティト


ビックフットは

夜の空

ひとり星座を編んでいる

寂しい子どもをみつけると

星の毛布を投げるだろう

毛布をもらった子どもは

空の旅

両手に

笑いを溢れさせ

宙返り

ビックフットは

森の中

ひとり神話を書いている

迷った大人をみつけると

星の毛布を投げるだろう

毛布をもらった大人は

森の旅

両手に

涙溢れさせ

宙返り


- - - - - -


ビックフットは

見えません

大きすぎて

見えません

呼んでいるの

ビックフット

呼んでいるの

ビックフット

必ず答えてくれる

ビックフット

どこにいたって

星の毛布が届くから






深い山の奥に
小さな竜が
眠っていた
山の霧に包まれて
スヤスヤと
眠っていた
太陽が土を温めると
霧はさらに濃く
ゆらゆらと
木々の間を漂って
眠った竜を通り過ぎ
高い空へ昇っていった




薄眼を開けて
空を見上げた小さい竜は
山をいくつもまたぐほど
大きな白い
竜を見た
なんて大きくて強そうな竜なんだ
見とれる間もなく
大きな竜は尾を翻し
風の速さで
山の向こうへ
飛んでいった




僕もあんな風になりたいな
そう言って
小さい竜は跳ね起きて
ねぐらの穴を飛び出した
追いかける声には耳を貸さず
できる限りの速さで走った
山の頂まで来ると叫んだ




「空の竜
みてください
僕はこんなに早く走れます
あなたと一緒に連れて行ってください
あなたのように大きくなりたいのです
きっと役に立つでしょう」




その声が聞こえたのか
聞こえなかったか
大きな竜は再び
近くの空へ現れた




「来たければ
私の背中に乗りなさいい」
そう言って大きな竜は
空を降りてきた




小さい竜は
目を輝かせ
一目散に大きい竜に飛び乗った




小さい竜を背中に乗せて
大きい竜は広い空に
上がって
上がって
上がって
あっという間に
山は遠く小さな点になった




小さい竜は
あたりの空が
濃い青に変わったことに
気づき
少し怖くなってきた
大きい竜の背中を掴む手に
力が入る

大きい竜は
おかまいなしに
どんどん高く
どんどん早く
自在に駆け回った

もう
山などはるか彼方に消えていた
代わりに
たくさんの星が
あたりを埋め尽くしていた
飛び交う星をすり抜け進む

大きい竜は
見事な飛行術

小さい竜は
背中につかまり
胸がドキドキしながらも
嬉しくて
嬉しくて
いつまでも
この旅が終わらないことを
願っていた

大きい竜は
ひときわ明るい星を過ぎると
ふわりと雲に覆われた青い星に向けて
飛び込んでいった

「うわーぶつかる」
小さい竜は大きい竜の背中につかまり
目を閉じた
気がつくと
小さい竜は
深い山
見慣れた景色の地面にいた
そっとあたりを見ると
柔らかな朝の霧が
体を包んでいた

空には
山をいくつもまたぐほど
大きく白い筋雲ひとつ
眠そうに
浮かんでいた




a soft wind

山本コヲジ


誰かが
それを
呼んだ
 
そら
 
誰かが
それを
見つけた
 
見えないような
見えるような
広がるような
包むような
じっとしているような
うごいているような
さわれないような
さわれるような
とおいような
ちかいような
 
日が降る中で目を閉じて
月降る中で目を閉じて
みえないそれをみようとした
なにかが触れて過ぎていった
どこまでもどこまでもつづく
みえないそれをみようとした
どこまでもどこまでもちかく
ここによりそっていてくれた
いつもくっついていてくれた
はなれることはできなかった
 





私の足が柔らかな枯れ葉の海を踏む、その前に
私の花が生まれていた
紅色野薔

私の手が空を結ぶ樫の木に触れる、その前に
私の花が生まれていた
白雪野百合

私の羽がコマドリの声を追いかける、その前に
私の花が生まれていた
甘い忍冬

私の足が星の苔をなぞる、その前に
私の花が生まれていた
蜜降る針槐

私の髪が時計草の時に絡まる、その前に
私の花が生まれていた
時を打つ一輪草

私の背中を帚星が撫ぜる、その前に
私の花が生まれていた
変わらぬ誠ニオイアラセイトウ

私の頭に載せたシロツメクサの輪の、その中に
無限の宇宙を開き
空の畔で
魂の花を探すと誓い
向う未知

茉莉花、アヤメ、山藤、桜、
先々に誘う花畑回り道
歩けど進まず
戻る道は星と消え去り
荒れ野に佇めば
果てなく深い蒼の帷に震える
小夜啼き鳥

ひとり泣き濡れる茜野原
合歓の木の下に眠り
小舟漕ぎ出す夢見る頃
瞼に降る花の呼び声を聞く

目を開けてお前の手の中を見よ
昼より白く
夜より黒く
光る花
こよなき夢よ
永劫の花
お前の花よ




a soft wind

山本コヲジ


こんなにきれいな 空の下
見上げる
私は
何も持ってはいないけど

きれいのたねなら
たくさん
知っている

それは
見知らぬ誰かが撒いた
無数の
尊い祈りのたね

畑の
オミナエシの中に
紛れていやしないか

お母さんの作った料理の中に
隠れていやしないか

工場のなかで
眠っていやしないか

お父さんの足跡に
忘れられていやしないか

誰にも知られずに
そっと蒔かれて
黙っている
たね

中には
大事な人が
大事なものが
幸せであるように
祈る願いが
詰まっていて
時期が来ると
ちゃんと役目を
果たすだろう

私はそんなたねを見つけて
知らせよう

こんなにきれいな空の下
見上げる
私の手には何にもないけど

私も
たゆまず
たねを蒔こう
幸願う祷りのたねを
いつか役立つ
小さなたねを
たくさんたくさん
世界を美しくするために


たねは
そこら中に
広がって
誰かの心の隅に仕舞われて
じっと
役目を果たすだろう
ほら
風に乗って飛んでいけ
どこまでも
どこまでも
あなたの澄んだ瞳の中を
通り越し
空の青さを突き抜けて
暗い宇宙の彼方まで
これから生まれるすべての彼方まで
飛んでいけ
そして世界の欠片となって
新しい美しさの
たねとなれ




耳に聞こえるメロディは美しい。 しかし聞こえないメロディはもっと美しい。John Keats